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2013.05

 
故堀部上人のこと

佛教大学(京都)入学時以来の畏友、堀部博海上人が極楽浄土へと旅立たれました。
過日、親しい方々とともに四十九日法要(偲ぶ会)を営みました。

法要の中で読み上げた表白(ひょうびゃく=ご本尊の前に、法要の主旨を読み上げるもの)は以下の通りです。

「謹み敬って本尊阿弥陀如来、観音菩薩勢至菩薩、宗祖法然上人の宝前に白(もう)して言(もう)さく。
今ここに、堀部上人有縁の一同あい集い、当林海庵本堂に上人精霊を勧請し、恭しく七七日忌の法会を厳修し、追善供養の誠をいたさんとす。
惟えば上人は多きにわたる分野、音楽、文学、舞踊より哲学、心理学、キリスト教、租税法に至るまで各々高い見識と幅広い経験を有され、平成三年からは京都佛教大学に学び、仏教学、浄土学の学問修行を修めらる。
僧階を取得されて後は、東京東麻布心光院に縁を結ばれ、法務を通じ寺門発展、檀信徒先祖慰霊のために身を尽くせり。
しかるに近時病を得られ、娑婆の縁にわかに尽きて去る三月四日、安祥として西方に往生せらる。世寿八十三歳。
請い願わくは上人、平生より修するところの口称念仏、悉く回向して行願速やかに円満し、早く穢国に還り来たって人天を度せられんことを。敬って白す。」



上人は若かりし頃、国立音大を卒業。専門はピアノでした。学識豊かで多芸、多才のまことに稀有な教養人でした。語学も堪能で、ヘルベルト・フォン・カラヤンが来日した時には通訳を勤めた、とのこと。
あるとき私と話していて、クラシック楽曲の話題が出ました。上人は、
「あなたが聴いたその曲は、指揮者は誰で、どこのオーケストラのいつの演奏ですか?」
とお尋ねになりました。そこがはっきりしないことには話の進めようがない、という風でした。なるほど、専門家にとってはそうなのか、と思った次第です。
むろん仏典のご理解も深く、
「『阿弥陀経』に説かれている極楽浄土の光景は、経典編纂当時のインドで想い描かれた理想郷だという人がいるが、そうではなくて実際の、現実の光景ではなかろうか。」
と言われていたのを思い出します。
上人は音楽家にして税理士、さらにはキリスト教の牧師から浄土宗僧侶に転身されたという変わった経歴の持ち主です。
あるとき、
「所得税の申告期限は3月15日ですね。」
と言われるので、
「ええ、そうだと思いますが。」
「その日の何時までかご存知?」
「いや、知りません。」
「締め切りは夜中の12時。昔は午後5時までだった。あるとき私が国税に、『申告期限は3月15日ってそう書いてある。どこにも夕方5時までなんて書いてないではないか。15日といえば、夜中の12時まで15日でしょ。12時まで受付けなくちゃおかしいでしょ。』とねじ込んだら、しばらくして夜中の12時までになったんですよ。」
「でも夜中は税務署も閉まっているのでは。」
「そう。夜間投函口というのがあって、そこに放り込んでおけば大丈夫なの。」
「へぇー(感心)」

牧師をされていたときは刑務所の教誨師(受刑者の人たちに説教をする)を勤め、地元のならず者にも一目置かれていた由。

上人はまた気難しいところや、自由奔放なところもたくさんお持ちで、色々な方々にご迷惑をかけたようです。(件の国税局の担当者もさぞかし困られたことでしょう。)法要後の会食の席では「まったくへそ曲がりなんだから」「反面、女性にはとにかく甘い」など、「死んだ人の悪口」に花が咲きました。



堀部上人の御霊よ。願わくは西方浄土において速やかに仏道を成じ、翻ってわれらを安らけき彼の国に導き給え。◆