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2016.05

 
仏教:東洋から西洋へ、西洋から東洋へ

 先日、『アメリカ仏教』(ケネス・タナカ著、2010年、武蔵野大学出版会)という本を読みました。
 アメリカには300万人以上の仏教徒がおり、その数は年々増えているとのこと。私にとってはたいへん刺激的な内容でした。新たに学んだことも多く、また読みながらしばしば頷かされました。

 同書には、アメリカにおけるいくつかの仏教の流れについて書かれています。
その中で、(日本発のZENは別として)日本にも影響が及んだものとしてまず思い浮かぶのが、チベット仏教です。
 日本の若い世代(当時)にチベット仏教が知られるようになったのは1980年代です。私自身は中沢新一さんの『虹の階梯』をきっかけとしてその世界に初めて触れました。 東京・五反田にあるチベット文化研究所に足を運び、チベットの高僧の講義を拝聴することもありました。若い日本人が大勢来ていたのを思い出します。日本でこのようにチベット仏教が注目されるようになったのも、欧米のカウンターカルチャーにおけるチベット仏教の影響が大きかったと思われます。『アメリカ仏教』には、ダライ・ラマ14世や、チョギャム・トゥルンパ師のアメリカでの影響力の大きさについて書かれています。日本ではその後、チベット仏教を中心的に取り入れたオウム真理教の事件があり、教えや実践という文脈でチベット仏教が取り上げられることは少なくなりました。今日ではダライ・ラマの説かれる分かりやすい教えや、中国との政治問題の方が日本では注目を集めています。
 現在、日本の若い世代を中心にアピールしているのは「マインドフルネス」です。これもアメリカの影響ではないかと思われます。アメリカでは上座部の僧侶の方々や、ベトナム出身の高僧ティク・ナット・ハン師らの指導により「マインドフルネス」瞑想法が一般の方々に広まりました。様々な分野-教育や医療、刑務所のプログラムにまで用いられています。今では、一宗派や一宗教の修行の枠を超えて大きく広がっており、アメリカ人の指導者、それも僧侶ではなく在家の指導者がたいへん多いそうです。

 日本でも今後、チベット仏教やマインドフルネスと同様、海外の仏教の影響が大きくなってくるでしょう。「エンゲージド・ブッディズム(社会参加する仏教、行動する仏教)」という概念も海外から入ってきたものです。僧侶も社会問題に積極的に関わってゆくべきだ、という考え方で、近年日本でも若手僧侶を中心にさまざまな社会活動が行なわれるようになりました。
 海外の仏教のいろいろな動き、状況が伝えられるようになり、その影響が日本にも及んでいます。先祖供養を中心とした伝統的な仏教はまだまだ主流であり続けるでしょうが、やがて個人個人が「生きるよりどころとして」日々の実践を仏教に求めてゆくようになると思われます。

 アメリカで浄土教が盛んである、という話はまだ聞こえてきませんが、これから徐々に伸びてくるのではないかと思っています。
 私自身は、(体験的に)瞑想系の修行には限界を感じました。瞑想を続けてゆくと、やがて自分の集中力や意識状態を自分自身でチェックするようになります。そうすると、自分の意識状態に対する関心が第一となり、他人と距離感が広がってしまうのです。心安らぐ素晴らしい体験でありながら、同時に他者を疎外してしまう…そういう限界を感じました。自力による瞑想実践に限界を感じたとき、浄土教の広く深い世界に魅せられるようになったのです。手前味噌になりますが、私のように感じる方がアメリカ人や英語圏の人々の中にも出てくるような気がしています。(そのような夢を描きながらYouTubeの英語法話を始めました)

 個人個人の価値観を尊重する傾向は、今後ますます強くなることでしょう。宗教観もまた同じ。アメリカ仏教、海外の仏教から刺激を受けながら、日本の仏教も変わっていく…その中で浄土宗が、以前とは違う形で、すなわち「わが家の宗派だから」ということではなく、純粋に安心と修行を求める方向で注目される時代がやってくると思います。◆