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2003.07

 
お盆のこと

今年もお盆の季節がめぐってまいりました。夏の風物詩、といった趣もありますが、お盆の供養といえば、今は亡きご先祖さまとの対話のひとときであり、また自分の人生を振り返るひとときでもあります。お経の話はしばらくお休みにして、7月と8月はお盆のことについて書きましょう。

人は誰しも、いつか必ずこの世を去ります。しかし、それですべて終わり、というわけではありません。そのあと「出会い」があります。それは仏の国でのお話――ではどういう出会いがあるのでしょうか。

まず、仏との出会いがあります。この「仏」とはどういうお方か。とても言葉では説明できない尊いお方です。巨大な山のような存在感がある。無量のまばゆい光を放っておられる。共にいるだけで、心が自然に清められてくる。素直になってくる。他の人に対しても慈悲の心が湧いてくる。私たちの心はすべてお見通し。そして、私たちの良いところも悪いところもすべて見通した上で、私たちを慈しんで下さる。導いて下さる。そういうお方です。
そして、仏のお弟子さまがたとの出会いがあります。私たちの先輩です。先輩といいましても、仏の国でのこと。兄貴かぜを吹かせたり後輩をいじめたり、などということはありません。同じお弟子の一人として、大事にしてくれます。お互いに別々の人格で、お互いを尊重しあう。それぞれに得意なこと、不得意なことがあって、互いに補いあい伸ばしあう関係です。
それから、先輩がたの中に皆さんご存知の顔も見えます。さきに往かれたご先祖の方々です。私たちが行くと「よく来たね」と言って歓迎してくださるそうです。

そういう先に逝かれた先輩の方々――あちら側の世界のご先祖さま方が、こちら側の、まだ生きていてジタバタとしている私たちの世界に帰ってきて下さるときがある。これが、お盆なのです。

東京では七月十三、十四、十五の三日間です。こう申し上げますと、「いや、うちは十六日に送り火を焚きます」というお宅もあります。中には、十二日に迎え火を焚くお家もある。東京はいろいろな地方から来られている方が多いので、それを反映してお盆のしきたりにもいろいろなものがあります。お盆のお飾り、お供えもさまざまです。
土地によってはお盆のお供えのメニューが決まっているというお話を伺ったこともあります。十三日の夜は何、十四日の朝は何、昼は何…というふうに。何ともお幸せなご先祖さまではないでしょうか。準備なさる方はたいへんだと思いますが。
そして、キュウリの馬とナスの牛。「うちにお帰りいただくときは馬に乗って早く帰ってきて欲しい、お帰りになるときは、牛に乗ってゆっくりお帰り下さい」という意味だと言われています。あるいは、ご先祖様は馬に乗って、荷物は牛に乗せて帰ってらっしゃる、という話もあります。どんな荷物をお持ちなんでしょうね。お土産はあるかな?
こういうことは、お経には書いてありません。別にお釈迦さまが、「キュウリで馬を作りなさい」とお経の中で言われているわけではなく、みな、習慣として伝わってきたことです。そして、それはそれでご先祖さまを大切に思う気持ちのあらわれですから、結構なことだと思います。ですから、こうしたお供えなどの習慣については「こうやらなければいけない」ということは、仏教的な立場で言えば本当はないのです。ただ、いい習慣だから、ご先祖さまを大事にする心のあらわれだから、大切にしていきましょう、ということなのです。

(つづく)

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