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2006.05

 
国内開教のこと

今回は、少し内輪の話をしたいと思います。

私は今から5年前―平成13年の4月に、初めて「国内開教」という言葉を聞きました。ある日、地下鉄の駅で、当時の浄土宗宗務庁の課長さんとばったりお会いしました。同じ電車に乗り、新宿駅で別れるまでの10分ほどの間に、こんなお話をされました。 「国内開教といって、浄土宗のお寺が不足している地域に新たにお寺を創っていこうという施策があるんですが…やってみませんか。やり甲斐があると思いますよ。自分の努力が形になってゆくわけですから。」
そして、
「浄土宗の総合研究所で『国内開教システム』というのを作っているんです。様々なデータを集めてあります。一度見に来ませんか。」
浄土真宗ではすでに、「都市開教」という呼び名で新寺建立をすすめています。同様の施策を浄土宗でも行なってゆこう、ということのようでした。
私にとってはたいそう魅力的なお話でした。また、いくら以前から存じ上げていたとはいえ、課長さんが私に声をかけて下さったのが嬉しく感じられました。そこで周囲の方々に相談しながら、少しずつ方向性を探ることにしました。(この延長上に現在の林海庵があるわけですが、しかしまあ、その後の5年間のめまぐるしさときたら…)

私の師僧は、当初消極的でした。「笠原君が宗務庁の職員になって、その立場で取り組むのなら分かるが…。」
確かに、当時の私の立場ですと、私の開教活動の責任を師僧が負わねばならぬ状況が出てこないとも限りません。この問題は、後年林海庵が「浄土宗寺院」として正式に認証を受けてから、ようやく解決いたしました。もっとも林海庵が「浄土宗寺院」として認められるに際しても、いろいろなことがありました。何せ前例のないことです。これまで「開教寺院」はありましたが、宗務庁主導により、ゼロから立ち上げたお寺はありません。先例を作り、実績を重ね、宗内に制度を作ってゆく…三つ巴の展開でした。
以前にも書きましたが、ある信徒さんは、
「今は、色々なことがどんどん変わってゆく時代。一年前は到底不可能に見えたことが、一年経つと可能になることもある。希望をもって頑張って下さい。」
と言って、励まして下さいました。

そして、本当にその通りになりました。寺院認証の他にも、助成金予算の増枠、国内開教使制度の設立、土地建物購入のための融資制度など、新しい制度が次々と出来て参りました。
この間、私に声をかけて下さった宗務庁の課長さんは退職され、もうお一人の担当課長も退職。当時の宗務庁旧東京事務所長も、機構が変わって、宗務庁から離れられました。

さらに、ここ数年間、孤軍奮闘で走り回り、いくつもの寺院をゼロから立ち上げてきた担当係長が、この3月をもって宗務庁を退職されました。
この係長は常に開教使たちを叱咤激励し、また反対に不満を言う開教使たちをなだめ、上司に対して堂々と持論を展開し、都庁県庁の宗教法人担当者に食ってかかり、身体を張って開教を推進してこられた方です。開教使たちから一番頼りにされ、開教使が宗務庁を訪ねてゆくと、顔をほころばせて迎えてくれた人です。

先日、首都圏の開教使たちが集まり、かの偉大なる(もと)係長を囲んで感謝慰労会をもちました。皆さんの「熱い気持ち」がひしひしと感じられるひとときでした。

(参考)○国内開教に関する規程 (浄土宗・宗規第八十八号)~抜粋

第一章 総則
(目的)
第一条 この宗規は、国内における地域人口の流動等にともなう過疎、過密化及び社会構造の変動に対応する本宗の有機的教化方策を策定して、教化施設の復興又は新設するなど開教活動の促進と寺院の活性化を促し、もって本宗の教宣の拡張を図ることを目的とする。

第二章 委員会
(委員会の設置及び職務)
第二条 前条の目的を達成するために、国内開教委員会(以下「委員会」という。)を設置し、次の各号に掲げる事項を協議検討する。
一 国内開教の有機的展開のための方途の策定
二 国内開教地域(以下「開教地域」という。)の選定及び解除に関する事項
三 国内開教使の資格審査、選任及び解任に関する事項
四 その他、宗務総長より指示された事項(…以下略)

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