コラム目次へ

コラム倉庫

2011.09

 
お布施の定額制?

このところ、お布施の定額制をめぐる報道を目にします。
直接ご質問を頂くことも出て参りましたので、私の考えを書かせて頂きます。

住職としてお布施を受ける立場でありながら、私はつい先頃まで実家の菩提寺の檀家としてお布施を包む立場でもありました。
20年前に実父が亡くなった時、葬儀の打合わせに菩提寺に伺いました。その際にお布施の額をお尋ねしました。しかし金額は言って下さいません。当時のご住職の奥様は「お気持ちで」と言われるばかり。途方に暮れましたが、「なるほどこれも修行か」と思い直し、自分なりの金額を決めることにいたしました。

私はその後、浄土宗僧侶の道に進み、さるご寺院に縁を頂いて勤務するようになります。そちらのお寺もさきの菩提寺と同じでした。檀家さんから尋ねられてもお布施の額は言いません。どうぞご無理のないところで、というのが決まった返事です。
「家によって色々ご事情が違うから」というのが理由でした。なるほど、お布施は寺院の活動を支える大切なものだが、個々の金額に関わらず全体としてお寺が回ってゆけば良いのだな、と知りました。それぞれのお宅の経済事情や、先祖や仏教への思い、またお寺に対する気持ちもさまざまなので、檀家さんに決めて頂くのが一番良いのだ、と。

このように、家族何代にもわたるような菩提寺と檀家の関係の中では「お布施の定額制」という問題は出て参りません。多くは信頼関係の中で布施の額が決まってゆきます。ある意味ではその方が平等ですし、また多く包める家には包んで頂くことによって、本当にお布施を納められないという家でもお葬式を出せる─そういう相互扶助的な面もあるわけです。

一方菩提寺をもたない方々(大都市圏にお住まいの方が多いでしょう)はどうでしょうか。ご身内にいざ何かあったときに、葬儀を頼めるお寺が無い。やむを得ず僧侶の紹介を葬祭業者(ないし紹介業者)に依頼する。そういうケースが増えてきました。この場合は、上の話と大分違って参ります。
業者の方々からすれば、施主(顧客)にお布施の額を提示できればその方がよい。葬儀に際し、限られた時間の中で打合わせして決めてゆかねばならぬことが山ほどある中で、寺院と施主の間に立ってお布施の金額を決めるのは大変です。料金表のようなものがあって金額をはっきりと提示できれば、業者さんも楽でしょう。
施主の立場からすると、長年お付き合いがあるお寺とは違い、今回が初対面となるお坊さんです。その方に大切な家族の葬儀を任せることになる、戒名をつけて頂く、少なからぬ金額を布施として包む。いや、その前にそもそもどういう方が来てくれるのだろうか。心も動揺していますし、頭も混乱しています。
「お布施の金額はお気持ちで」と言われても困ってしまいます。そんなときに業者さんが金額を提示してくれれば安心です。

このような場合は定額制、あるいは金額の目安の提示もやむを得ないのか、と問われれば、現実の状況を考えれば「やむを得ない」と思います。が、一方では「しかし」と申し上げたいのです。

お金は誰にとっても大切なものです。大切なものを仏前に捧げる、そこに執着心を浄める「修行」としての布施行の意味があります。
功徳という点で考えれば、布施は多い程よい。しかし多いと言っても限度があります。生活に負担がかかるほど包むべきではありません。ではどのくらいが適当か─やはり施主に決めて頂くのが一番良いのです。

これが、もし「言われた金額を支払った」ということで終わってしまいますと、せっかくの布施行の意義が薄れてしまいます。
ご葬儀は、送る人にとっても送られる人にとってもかけがえのない場です。そこでは清らかな心で読まれる読経と、清らかな心で捧げられる布施が大切です。
お布施を納めることを、どうぞ貴重な修行の機会となさって下さい。

またできれば、業者さんにお寺の紹介をお願いする前に、ご自分でお寺を見つけておくことをお勧めします。地方によって事情もあると思いますが、大都市圏であればそうしたお寺がきっと見つかるはずです。
各宗派には全国の寺院を統轄する宗務庁、宗務院といった組織があります。連絡を取れば、きっと近隣のご寺院を紹介して下さることでしょう。
何かある前に、お寺とつながりをもっておけば安心です。
特に、予算の限られた方は「定額」「目安」に縛られない布施額を相談することも可能になります。■

ご寄付のページへ